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6・伝えたい想い Page15

last update Dernière mise à jour: 2025-03-17 09:12:43

「実はね、このタイトルには私が読者の皆さんに一番伝えたい想いが込もってるんです」

「伝えたい想い……ですか」

「はい」

 私は頷く。でも、そのメッセージを伝えたい相手は読者の皆さんだけじゃない。ここにいる原口さんにも……。でも、それは私の口から直接伝えないと意味がないことだ。

 ――彼は引き続き、ノートのページをめくっていた。

「一応ね、要点だけは章分けして文章にしてみたんですけど。これを全部繋げて一続きの長い文章にしようと思ったら、どう書いていいか分からなくなって」

 編集者の彼なら、何かいいアドバイスをくれるかもしれないと期待したけれど。

「そうですね……。先生は読者を感動させられる文章力をお持ちなんですから。あとは組み立て方次第なんじゃないでしょうか」

「そんな! 買いかぶりすぎですよ!」

 ……原口さん、褒めすぎ! 私は思いっきり謙遜した。だって、自分ではそんなにすごい文才の持ち主だと思っていないんだもん。……嬉しいけど。

「でもせっかく参考資料を持ってきて下さったんで、これを頼りに頑張ってみますね」

「まだ十分に時間はありますから、じっくりやって下さい。僕も時々、進行具合をお訊ねしますから」

「はい」

 彼が来るまで、前に進めるか心配だったけれど。少し今後の道筋(みちすじ)が見えてきたような気がする。

 ――と、そんな時。

 グゥゥ~~ッ…………

 小さくて奇妙な音が――。ん? お腹の鳴(な)る音? 私はもう晩ゴハンを済ませてある。ということは……。

「……すみません、先生」

 恥じ入るように、原口さんが詫びた。さっきの音の正体は、彼のお腹の虫が鳴いた音だったらしい。

「もしかして、晩ゴハンまだなんですか?」

「はい……。さっきお話しした先生のせいで食べるヒマがなくて。お恥ずかしい」

 ――やっぱりこの人、放っておけない! こういうところが私の母性本能をくすぐるんだということを、ご本人は自覚していないらしい。そこがまた私のツボなのだ。

「ねえ原口さん、よかったらウチでゴハン食べて行きますか? って言っても、ほとんど私の残りもので申し訳ないんですけど……。あっ、玉子焼き作ります?」

 生真面目な原口さんも、さすがに空腹には勝てないみたい。

「いいんですか? ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えてごちそうになります」

「はい! すぐにできるんで、ダイニン
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